食と農

B-11-1-④、家庭菜園について

             

「家庭菜園をするに当たって」

 

   前項迄は、専門家のみを対象としてかいたのであるが、最後に素人栽培、即ち家庭菜園に就てかいてみるが、何しろ素人栽培としても、肥料は糞尿を多く使わなければならないので、馴れない素人が糞尿を扱うとしたら、実に堪えられない苦痛である。而も撒く時は勿論、其後幾日かの間は、部屋の中まで臭気が流れ込んでくるのだから、絶えず不快に悩まされ、実に非衛生的である。殊に飯時などときては、考えただけでもウンザリする。そんな苦痛をしても大いに効果があるとすれば我慢もするが、実はそれが反って成績不良の結果となるのだから、恐らく斯んな馬鹿な話はあるまい。今日迄知らなかったからとは言い乍ら、余りの無智に呆れるのである。

 

  自然農法によれば、汚ない臭い思いは全然なくなり、清潔で衛生的で、作物の出来がよく、量も多く、其美味なる事驚く程である。而も害虫の心配もないばかりか、蛔虫の危険もなく、第一葉色にしても、茎の形にしても実に今迄の有肥のものより美しい。従って自然農法を始めると、毎朝畠弄(イジ)りが実に楽しくなる。今迄は畠弄りなど楽しみよりも、気味が悪いのが先に立つ、汚物が撒いてあると思っただけでも、其上を歩く気にはなれない。

 

  そうして、素人栽培には斯ういう事がよくある。それは馬鈴薯など実付きが悪いとか、実が大きくならないとか、トマトや茄子など、花落ちが多かったり、鬆()のある大根が出来たり、胡瓜など根虫が湧いて枯れるとか、漬菜類など完全な葉は殆んどなく、どの葉も穴だらけである。以上何れも人為肥料の為であるが、それに気が付かない為、素人は肥料が足りないからだと思い、益々多く肥料を与へるから、益々悪くなるという訳で、誰しも本当の原因が判らないから、専門家に訊くが、専門家も肥料迷信に罹っている以上、満足な解答は与えられないので困っている人が、世の中には如何に沢山あるか知れない。従ってそれらの人達が本農法を知ったなら、如何に救われるか、全く地獄から天国へ昇ったような気持となるであろう。

 

                          (「素人菜園に就て」自解  昭和26115日)

 

   無肥料栽培については地上天国創刊号に詳細発表したのであるが、この時の記事は農耕者を目的としたものである、今回は家庭菜園を主にして説明するのである。

 

  専門である農業者が無肥料栽培において素晴しい好成績を挙げている事は地上天国および本紙にその報告を載せてあるから読者は大体理解出来たと思うが、特に家庭菜園に至っては専門家でない素人が行うのであるから、無肥料栽培の福音は暗夜に燈火を得たる如き喜びであろう事は断言し得るのである。

 

  家庭菜園においては肥料として今日まで主に人肥を使用したのであるが、この糞尿を取扱うことは悪臭は勿論、種々の点において堪え難い程の苦痛であろう、それが無肥料となれば全然そういう苦痛はなく実に清潔で心から楽しんで栽培が出来る訳である、しかも有肥料の時よりも其成績は格段に良く、しかも手数も大いに省けるのであるから実に一挙両得である、試みに有利な点を左に列記してみよう。

 

一、肥料は堆肥のみにてよく人肥の如き不快がなく手数も省ける事

 

二、総ての野菜は質が良く有肥野菜と比較にならぬ程の美味である

 

三、総体大きく数量も増加する

 

四、害虫発生は有肥栽培に比し何分の一に減少するから消毒薬の必要など無論ない

 

五、寄生虫特に蛔虫など伝播憂なき事

 

  右の外種々の効果はあるが、主たるもののみを書いたのである、素人菜園の多くは土地が狭く、米麦は作らず殆んど野菜のみであろうから個々の野菜に就て吾等が実験済みのものを説明してみよう。(中略)

 

 

 

  そうして堆肥の目的は何が為であるかというと土を固まらせない為と土を温める為とである、作物の成育力を旺盛にする根本としては根伸びを良くする事である、それには土が固まらない事が第一で、それには堆肥を土へよく混ぜるのである、植物が根伸びの場合末端の毛細根の伸びをよくするには草葉の堆肥なら繊維が柔いから根伸びの邪魔にならない、処が木の葉は繊維が固いから土に混ぜるのは面白くない、床にして温める為に使うのがよい、理想的にいえば草葉と土の混合土を一尺位の厚さにし、その下段へ同じく一尺厚み位に木の葉のみの床を作るのが最も良いのである、菜類豆其他凡ゆる野菜はそれでいいが、ただ大根人参、牛蒡等の如き根を目的のものは土の層をその作物に適するよう加減すべきである、そして成可高畝にし根に対し日当りを好くすれば非常に成育がよいのである、薩摩芋の如きは二尺位な高畝にし、苗の間隔は一尺位にする時は驚く程巨大な芋が出来るのである。(後略)

 

 (「農業の大革命  清潔で心から楽しめる  家庭菜園の無肥料栽培」光3  昭和24330日)