概論
9,健 康 と 食 事
9-⑤ 長寿に就て
前項栄養食に於て説いた如く、人体機能には必要な栄養素を製出すべき働きがあるのであるから、その機能の活動を旺盛にする事が最も緊要である。彼の幼少年時代は、その機能の活動が最も旺盛であるから、盛んに発育するのである。此理によって、長寿を得んとするには、先づ栄養機能を小児の如く、旺盛にする事であるがそのやうな事が、実際上出来得るやといふに、私は或程度それが可能を信ずるのである。
それは、如何なる方法であるか-といふと極端な粗食をすることである。こんなことをいふと、現代人は驚くであらうが、私の説くところを充分玩味されたいのである。それは極端な粗食を摂るとすれば、栄養機能は、猛烈な活動をしなければ、必要なだけの栄養が摂れないことになる。自然、それは、小児の機能のごとき活動力が再発生することになる、言はば、機能の若返りがおこり始めるのである。機能が若返る以上、全体的に若返へらざるを得ない訳である。これに就て、二三の例を挙げてみよう。(中略)
之は、私の体験であるが、私は若い頃、肺患に罹り、之を治す為に三月あまり絶対菜食をしたことがある。勿論、鰹節も用ひなかった。然るに菜食によって非常に身体が軽くなり、よく高い所から飛降りたりした事がある。そうして、高所から下を瞰下(ミオロ)しても、不思議に恐怖を感じなかった事を今でも覚えてゐる。其後、普通食になるに従って、漸次普通状態になったのである。又肉食を旺んにした事もあったが、此頃は身体が重く、又病気に罹り易かったので、肉を制限してから結果が良くなったのである。
飛行家に就て、爰で今一つ重要な事柄がある。それは急降下爆撃であるが、之は白人は日本人ほど思ひ切った技能を発揮出来ないそうである。何となれば彼等は、猛烈な急降下をすると、毛穴から血を吹くそうである。それは全く肉食の為である事はいふ迄もない。即ち肉食者は敗血症になるからで、敗血症とは人も知る如く血管が破れ易く、又出血すると、容易に止まらないのである。(中略)
又日本に於ては昔から武士が腹を切りかけたり、槍に突かれたりし乍ら、其刃物を掴んだまゝ、暫くの間物を言ふが、そういふ事は、白人には絶対出来ないのである。何となれば白人は負傷すると、出血が容易に止まらないが、日本人は出血が止り易いばかりか、刃物に対し、肉が収縮して密着するやうになるそうである。之等は全く菜食と肉食との相違からである。
そうして一体仙人はどの位長命するものか正確には判らないが、仙人の寿命に就て或本にあったのであるが、今迄一番長命のレコードは八百歳で、それは一人であったが、五六百歳は何人もあったそうである。従而、二三百歳は、仙人では早死の方であると書いてあった。又或本に神武天皇以前、数万年前からの記録に、やはり二三百歳から五六百歳までの高貴の御方の御事蹟が、相当の正確さで書いてあった。
之は、私の想像であるが、日本人の寿齢に就て、食物が一番関係があると思ふのであるが、最古代は勿論、菜食ばかりであったのは事実である。そうして生物を食ひ始めたのは貝類からであった事は、我国の各地から発見される貝塚が證明してゐる。其時代の先住民族は、魚を漁(ト)る術を知らなかったので、先づ採り易い貝類から食ひ始めたのであらう。それが後に漁(イサ)る事を知って、魚食をするやうになったのであるが、それでも其頃は、百歳以上の寿齢は易々たるものであった。然るに、曩に述べた如く、漢方薬の渡来によって、非常に寿齢は短縮し、明治以後に到って、肉食や西洋薬等によって、弥々短命になったばかりか、体位も低下したのである。(中略)」
(「長命の秘訣」明医二 S17.9.28.)
「(寿命といふことは決ってゐるのでしょうか。)
之は大いに違ひますね。自殺や他殺や病気等で死ぬのは寿命ぢゃありませんよ。寿命が尽きて死ぬのはそんな苦しみがないんです。今の人は、神様から頂いてる寿命を無理に縮めてゐるんです。つまり不自然死ですね。自然死は九十以上で、九十以下は皆不自然死ですよ。自殺、他殺、病死、それから医者にかかって死ぬのなんて……ま、これは大きな声では言へませんから、あとは察して貰へばいゝ。(笑声)――本当の事をいふのは実に難しい事でね、嘘をいふ方がずっと易しいんです。だから、私は「嘘を言ふと本当にし、本当を言ふと嘘にする」ってよく言ふんですよ。
(そう致しますと、楽に死ぬ場合は寿命と考へて宜しいでしょうか?)
えゝ寿命です。然し楽に死ぬんでも、九十以下で死ぬのは寿命ぢゃありませんよ。人間は間違った事をして来たから、まあ、九十で仕方ないんですが、本当はどうしたって百二十は生きられるものなんです。だから人生を四季に分けるといゝんで、三十、三十づつね。人生三十までが春ですよ、それから六十までが夏で、九十までが秋、百二十までが冬なんです。だから私は九十を越してから隠居するって言ふんです。冬だから冬眠ですかね。(笑声)で、九十までは大いに働き続ける積りです。又事実人間はそうなってゐるんです。(中略)
私もだから九十以上になったら絶対粗食にする積りです。絶対粗食にすると栄養器官が非常な活動をするんで、ずっと若返るんですよ。だから年をとる程所謂「栄養」を食はない様にするのがいゝんです。栄養不足だから弱いって言ひますが飛んでもない間違ひですよ。みんな、栄養過剰だから弱いんです。(笑声)」
(「御光話録10号」 S24.5.13.)