食と農

 

「食」について

 

6、よく嚼(カ)むということについて

「よく嚼(カ)むということについて」

 次に、咀嚼に就て曰はんに、よく嚼(カ)む程いいといふ事は世間で言はれ、又、大方の人はそう信じてゐるが、之も間違ってゐるのである。之に就て、私は実験した事がある。

確か拾余年前だったかと思ふ。

アメリカにフレンチャといふ人があった。

此人が作った、フレッチャーズム喫食法といふのがある。

出来る丈よく噛む-形がない迄、ネットリする位迄嚼んでから呑み込むといふ行り方なので、大分、其当時評判になったものであるが、それを私は、一箇月間、実行してみた。

最初は、非常に具合が良かったのであったが、段々実行してゆく裡に、胃の方が少し宛、弱ってゆくのが感じられ、随而、何となく身体に力が薄くなった様な心持がしたので、之ではいけないと、元の食餌法に変えた所が、忽ち力を恢復したのである。

此実験に由って、よく咀嚼するといふ事は、胃を弱める事になり、大変な間違ひであるといふ事を知ったのである。

然らば、どの程度が一番いいかといふに、半噛み位が一番いいので、その実行に由って、私は、胃腸は頗る健康であるのである。                        (「八、食餌の方法」医講  昭和10年)


 (前略)又、近来、食物を出来るだけ咀嚼すべしと謂ふが、之も大いに誤ってゐる。

何となれば余りによく咀嚼すれば胃の活動の余地が無くなるから胃は弱るのである。

従而半噛み位即ち普通程度が可いのである。

昔から"早飯の人は健康だ"といはれるが、之等も一理あるのである。(後略)                (「栄養学」明医一  昭和18年10月5日)

                                        (「栄養学」明医二  昭和17年9月28日)
                         (「栄養学」天  昭和22年2月5日)類似

 (前略)以前アメリカで流行されたフレッチャーズム喫食法という食事法があった。之は出来るだけよく噛み、食物のネットリする程よいとされてゐる。

之を私は一ケ月間厳重に実行したのである。

処が漸次体力が弱り、力が思うように出なくなったので驚いてやめ、平常通りにした処、体力も恢復したのであった。

そこでよく噛むという事が、如何に間違っているかを知ったのである。
それは如何なる訳かというと、歯の方でよく咀嚼するから、胃の
活動の余地がないから胃は弱るという訳であるからすべて食物は半噛み位がよい事を知ったのである。

昔から早飯早糞の人は健康だと謂われるが、此点現代文化人よりも昔人の方が進化していた訳である。(後略)                   

                                     (「栄養の喜劇」自叢十  昭和25年4月20日)


(前略)よく噛む事を奨励するが、之も右と同様胃を弱らせる。此例として彼の胃下垂であるが之は胃が弛緩する病気で、全く人間が造ったものである。

というのは消化のいい物をよく噛んで食い、消化薬を常用するとすれば、胃は益々弱り、弛緩するに決っている。

何と愚かな話ではないか。

之に就て私の経験をかいてみるが、今から三十数年前、アメリカで当時流行した、フレッチャーズム喫食法というのがあった。之は出来るだけよく噛めという健康法で、私は実行してみた処、初めは一寸よかったが、約一カ月位続けると段々弱り、力がなくなって来たので、之は不可んと普通の喰べ方に還ると、元通り快復したのである。(後略)           (「栄養」結革  昭和26年8月15日)

 

「咀嚼について」

  (前略)次に咀嚼に就て言はんに、良く噛む程いいといふ事は世間でも言ひ、又、多くの人もそう信じてゐるが、之も間違ってゐる。

之に就て私は、実験した事がある。
 今から二十年位前であった。アメリカにフレッチャーと言ふ人があった。

此人が始めたフレッチャーズム喫食法と言ふのがある。
それは、出来る丈能く噛む、ネットリする位まで嚼めば良いとい
ふので、其当時大分評判になったものであるが、それを私は一ケ月程実行してみた。

最初は非常に工合が良かったが、段々やってゐる内に、胃が少し宛弱ってゆくのが感じられ、それに従(ツ)れて何となく、身体に力が薄れたような気持がするので、之は不可いと思って、元の食餌法に変えた所が、忽ち力を恢復したので、此実験によって、良く咀嚼するといふ事は、胃を弱める結果となり、大変な間違ひであるといふ事を知ったのである。

然らば、どの程度が一番良いかと言ふのに、半噛み位が一番良いので、その実行によって、私の胃腸は爾来頗る健全である。(後略)                (「食餌の方法と原理」医書  昭和11年4月13日)

「よく噛む事は・・・」

(前略)よく噛む事を奨励するが、之も右と同様胃を弱らせるから勿論不可である。

此例として彼の胃下垂であるが、之は胃が弛緩する病気で、全く人間が造ったものである。

といふのは消化のいい物をよく噛んで食ひ、消化薬を常用するとすれば、胃は益々弱り、弛緩するに決ってゐる。

何と愚かな話ではないか。之に就て私の経験をかいてみるが、今から三十数年前、アメリカで当時流行したフレッチャーズム喫食法といふのがあった。

之は出来るだけよく噛めといふ健康法で、私は実行してみた処、初めは一寸よかったが、約一ケ月位続けると段々弱り、力がなくなって来たので、之は不可んと普通の食べ方に還元した処、元通り快復したのである。(後略)  (「科学篇  栄養」文創  昭和27年)