食と農

 

「食」について

 

10、食餌について

「食物の性質について」

 (前略)茲で、食物の性質に就て述べてみよう。元来栄養なるものは、野菜に最も多く含まれてゐる。従而、栄養だけの目的からいへば、穀類と野菜だけで充分健康を保持し得らるるのである。故に実際上、全然野菜を食せず、魚鳥獣等の肉のみを以て生活すれば、敗血症を起す事は周知の事実である。

これに反して、野菜のみを食って病気をおこすといふ事は、未だ聞かないのにみても明かである。そうして面白いことは、人間の性格なるものは、食物の種類によって、大いに影響を受けるものである。即ち、野菜のみを食する時は性格が柔順になり、無抵抗思想となるから、国民的には、国際的敗者となるのである。彼の印度が滅びたのは、宗教的原因にもよるがそれよりも同国民の食物が、殆んど野菜と牛乳にある事が、その主因であらう。又動物に於ても、ライオンや虎の如き肉食獣は獰猛性(ドウモウセイ)なるに反し、牛馬の如き草食動物は柔順なるにみても瞭かである。

 従而、菜食者は自然、物質的欲望や野心等の積極性が乏しくなるから、現代文化の社会に於ては、その境遇や職能により魚鳥獣等の肉をも食しなくてはならないのである。
 又、現在の如き国際競争や民族闘争の旺んな時代に於ては、獣肉も必要となるのである。即ち肉食は競争心や闘争意識を湧出せしむるからである。彼の白色人が常に闘争を好み欧羅巴に戦乱が絶えないといふ事実も、右の理由にもよるのである。近来、一部の論者に、肉食が非常に害があるやうに言ふが、之は謬ってゐる。元来食物に毒素があるとしても、それは極軽微であって、自然浄化によって消失するから、肉食も程度を越えない限り差閊(サシツカ)へないのである。

 以上の意味に於て、食物の種類は、各人の境遇や職能によって、取捨選択すべきである事が判るであらう。然し乍ら、人間は如何なる境遇にあるも、八拾歳以上になれば、物質的欲望や闘争意識の必要はなくなるから、菜食にすることが、最も良いのである。そうする事によって健康にも適し。より長命を得る事になるのである。
 右によってみても、粗食が如何に健康増進に適するかといふ事は明かである。然るに、今日罹病するや、栄養と称し動物性食餌を推奨する以上、かへって衰弱を増し、病気治癒に悪影響を与へるといふ結果になるのである。(後略)       

                                                    (「栄養学」明医一  昭和18年10月5日)

                                        (「栄養学」明医二  昭和17年9月28日)

                                        (「栄養学」天  昭和22年2月5日)類似